まぶたの悪性腫瘍に対する手術について
眼瞼にできる代表的な悪性腫瘍には癌とリンパ腫があることは前回の記事でお話ししました。このうち、リンパ腫には放射線や化学療法といった内科的治療がメインとなるためまぶた手術の出番の機会は多くありません。一方、まぶたの癌に対しては一部の例外を除いて、放射線や化学療法の効果は限定的とされており手術治療が唯一かつ根治させることが可能な治療に位置づけられています。したがって、体の他部位に転移をきたしてしまう前に正しく診断して癌を手術で確実に取り除くことが何より重要となってきます。
手術の流れは”切除”と”再建”の2つに分けられます。切除は癌細胞を取り切ること、再建とは閉じられなくなったまぶたを作り直す作業のことを指します。切除の原則としては、まぶた内部に一つの癌細胞も残らない状態にすること、所謂癌細胞の完全切除といえます。これを達成するために癌の辺縁(マージン)から周囲に3mm程度の余白を設定し、腫瘤本体だけでなく余白を含めて大きくまぶたを切り取る必要があります。(左下の写真参照)。これは腫瘤のみの限定した範囲での切除で良い、良性疾患に対する治療とは大きく異なる点になります。また、癌細胞を完全に切除できたがどうか確認するため切り取った組織内の周辺部に癌細胞が残っていないかどうかの確認も病理検査にて別途行います。
本例では、結果として上まぶたの横幅3分の2程度の大きな欠損になってしまいました(オレンジ線で囲まれた部分)。このように小さなしこりであっても、それが癌の場合には想像以上に大きな欠損になってしまうことはしばしばあります。欠損部位はまぶたを閉じた状態でも目が露出するため、そのままであれば目が乾いてしまい視力低下に繋がりますので、それを予防するためまぶたを作り上げる必要があります。そこで再建の出番となります。
再建におけるポイントは、① 目を閉じたときだけでなく開けたときにも生理的な形状になっていること、② 目の安全を保つことの2点であり、動的な形状だけでなく機能性も求められる非常に難易度の高い手技といえます。動的に優れた形状を作るポイントは横方向の緊張を適切な程度に維持することで、これがきつすぎても逆に緩すぎても自然な開閉瞼はうまくできません。次に、良好な目の機能を保つポイントは目に優しい再建材料を選ぶことです。目と常に接触しているまぶたの裏面は瞼板であり、様々な材料があるなかで、瞼板を使って再建することは最も機能的なまぶたといえるかと思います。まぶたはまぶたで作る、このコンセプトが重要です。実際、他院でまぶたの再建を受けられた方で、見た目の形状は良くても眼表面に傷が付いてあり、頑固な痛みに長年悩まされている方に出会うことがあります。再建に用いる材料や適切な再建方法を選択することで、目に優しく見た目も美しい状態に仕上げることが可能です。本例では当院での再建によって見た目だけでなく、機能的なまぶたを獲得することが出来ました(右上下写真参照)。
少し長くなりましたが、本日は怖いまぶたの悪性腫瘍に対する手術のお話しでした。まぶたの癌は比較的稀な疾患ではありますが、だからこそいざという場面では豊富な経験を基にした迅速な対応が必要とされます。本日の内容を是非、皆さんの頭の片隅にでもおいて頂ければ幸いです。
2025年06月17日 23:00