まぶたの厚みについて:ROOFと眼窩脂肪
まぶたは皮下の軟部組織や目を閉じる役割を持つ眼輪筋、脂肪、挙筋群、瞼板など様々な組織で構成されていますが、まぶたの厚みに関与する一番の要因は脂肪組織の多寡と言われています。まぶたの代表的な脂肪組織には眼輪筋下に存在するROOF(ルーフと呼ぶ)と眼窩内に存在する眼窩脂肪があり(図参照)、両者を隔てる眼窩隔膜の前にROOF、後ろに眼窩脂肪が位置します。ROOFは眼窩脂肪よりも浅い部位にあり、厚みのある線維性被膜に密に囲まれた状態にあるためその動きはほぼ制限されています。一方、眼窩脂肪はより深い位置にある挙筋腱膜の直上に存在し、薄い皮膜に粗く包まれているのみであり、まぶたの開け閉め(=挙筋腱膜の動き)に伴ってその位置が前後に変化します。
正面からみますと、ROOFは眉毛付近から睫毛側(下方)にシート状に伸びた構造をしています。一方で眼窩脂肪は眼球の後方に伸びて下まぶた側まで連続しており、眼球を後ろから支えています。ROOFはまぶたを守る毛布に例えられますし、眼窩脂肪は眼球を守るクッションであると同時に上まぶたに限ってみると挙筋腱膜の潤滑剤の役割を果たしています。
手術でまぶたの厚みを減らしたいご要望がある場合、主にROOFと眼窩脂肪の量を調節してまぶたの厚みを改善させます。ただし、脂肪切除には様々な合併症が想定されるため、上記に記載した解剖学的な特徴をよく理解した上で扱うことが肝要です。ROOFは上述のようにその動きが制限されているため、ROOF切除が不均一になってしまうとまぶたの厚みにムラが生じてしまうことがあります。また、皮膚面に近い部位にあるROOFを乱雑に切除すると、瘢痕形成による皮膚との癒着が生じ、予定していない高い位置に二重とは別の皺が新たに出来てしまうことがあります。一方、眼窩脂肪の取り過ぎは凹んだまぶたになる危険性や、円滑な開閉瞼に悪影響を与える可能性があり過剰な切除は厳禁といえます。
最後に、脂肪組織は年齢とともに萎縮していく性質があるため、手術の際は理想とする厚みよりも控えめな切除にとどめておくことが何より大切です。脂肪切除を繰り返すなどして理想的な厚みを追求し続けたとしても、そのまぶたの状態は永くは続かないことを決して忘れてはいけません(これは私が敬愛するご高名な形成外科の先生のご意見ですが、私も全く同感です)。
2023年01月06日 08:22