眼瞼下垂手術のバリエーション:前転組織による違い
まず眼瞼(まぶた)の解剖について簡単に述べます。眼瞼内には眼瞼挙筋が存在し、この筋の収縮がまぶたに伝わることでまぶたが開きます。伝わると書いたのは、眼瞼挙筋自体がまぶたに直接繋がっているのではなく、筋の先端が眼球の直上付近で挙筋腱膜とミューラー筋の二つに枝分かれし、これらがまぶた内部を併走したあと、まぶた末端に付着しています。従って、実際の手術では挙筋腱膜およびミューラー筋の単独もしくはその両者の前転が行われています。前転というのは、標的の組織に糸を掛けて手前側に牽引を掛けた状態で固定することをさし、この操作によって眼瞼挙筋の張力を増やすことができます。前転の標的組織として、①挙筋腱膜、②ミューラー筋、③挙筋腱膜とミューラー筋の3種類となります。
①挙筋腱膜前転:開閉瞼の2つの動力源のうち挙筋腱膜のみを前転する方法で、国内の形成外科や眼科、海外を含めて最も一般的に行われている術式です。ミュラー筋よりも矯正力が高く(まぶたを挙げやすい)、再発も少なく、また組織へのダメージも少ない点などが利点です。ただし、時に上まぶたのカーブが急峻となりやすい点や閉瞼のしにくさなどが欠点といえます。
②ミューラー筋前転(タッキング):挙筋腱膜は触らずにミュラー筋のみを前転する方法で、主に国内の眼科で広く施行されている術式です。生理的なカーブ形状を出しやすい、閉瞼がしやすいなどの特徴があり、手技としても筋へのアプローチが容易で、組織へのダメージも少ない利点があります。欠点としては矯正力が挙筋腱膜より弱い傾向にあること(例外もあります)、術後にやや戻りがある点などが挙げられます。
③挙筋群前転:挙筋腱膜とミュラー筋の両者を前転する方法です。矯正力の点では最も強力な方法であり再発も少ないといえますが、組織へのダメージが大きい点が欠点といえます。
当院では矯正力の安定感からまず①挙筋腱膜前転を選択します。そして定量時に生理的カーブ形状が得られにくい場合(三角目など)には②ミュラー筋タッキングに移行するようにしています。
施設によっては単一の術式のみしか対応していないところも多いですが、上記に記してきたように、状況に応じて術式を使い分けることは非常に大切です。当院では切らない手術だけでなく、切る手術でも豊富な治療経験があり、様々な状況において最適な選択肢をご提供できるよう常に心掛けています。眼瞼下垂でお悩みであれば是非一度ご相談にいらしてください。
2023年08月31日 16:11