切らない眼瞼下垂手術の利点とは?
前回の記事では切らない眼瞼下垂手術とは何か?のテーマで、経結膜法の全体像について説明させて頂きました。そこでは私が日々おこなっている経結膜挙筋腱膜タッキング法のことも実際の手術動画を含めてご紹介しました。本術式は経皮膚法と比較すると、多くの利点を有する術式といえますが、今回はそのメリットについて書いていきたいと思います。以下に列挙します。
① 皮膚に傷跡が残らない
② 皮下出血・腫れが少ない
③ 高い矯正効果
④ 術中定量との相違(ズレ)が少ない
⑤ 整容面での左右差が生じにくい(特に片側のみの手術例)
⑥ 兔眼が出にくい
⑦ 短い手術所用時間
⑧ 麻酔時の痛みが少ない
⑨ 皮下の瘢痕が少ない
⑩ 電気メスやレーザーメスなどの機器が不要
それでは一つずつ説明していきます。
まず、①と②は経結膜法全般に当てはまります。皮膚面を切開しないことは傷跡が残らないだけでなく、まぶたを開ける際の自然な二重の動きが再現されます。また、術後のダウンタイムが極めて短いことから早期社会復帰が可能です。実際、手術を受けた方から、”まぶたは挙がっていても、手術を受けたことを周りの方に気付かれなかった”との喜び?驚き?のお声を頂くことがあります。
続いて、③についての説明です。まぶたを引き上げる筋の走行は、眼球に近い結膜側の深部から手前に伸びています。そのため結膜からのアプローチでは、狭い範囲の術野であっても筋の深部への到達が容易であり、筋の前転量を稼ぐことができます(=重度の下垂でもまぶたを挙げやすい)。経皮膚法では必発である一過性の兎眼(目が完全に閉じれない)が本術式であればほとんど生じないことも前転量を稼げることに一役買っています。重度下垂や先天眼瞼下垂など難易度の高い例にも有効とされ、挙筋群短縮や前頭筋つり上げ術などの侵襲の高い手術法を回避できることが多くあります。
④ 術中定量とは、手術中にまぶたの高さや形状などが適切な状態にあるか確認する作業のことをさします。良好な手術結果を得るための大切な工程といえますが、まぶたの腫れや麻酔薬の影響などで術中定量が不正確となってしまうことがあります(術後しばらくしてからまぶたの高さが変化してしまう・・・)。この点は術者・患者さん双方にとって大きな懸念事項といえます。しかしながら本術式では腫れがほとんど生じないこと、少ない麻酔使用量(経皮膚法の1/3程度)であることから、正確な術中定量が担保されやすく、以前よりも自信をもって手術を終えることができるようになりました。また、手術で触る範囲は狭い範囲に限定されるため、まぶたの形態が維持されやすく、自然な形での挙がりが期待できます。
⑤ 左右の違いは、例えわずかな差であったとしても気付かれやすく、それが目元であればなおのことと思います。まぶたの高さの左右差のみならず、重瞼(ふたえ)幅の左右差は特に整容的に不利な結果になるとされています。片側のみの眼瞼下垂に対して経皮膚法を選択した場合、まぶたの高さ・カーブ形状・重瞼幅のすべてを左右差なく揃えるのは熟練した術者であってもなかなか難しいといえます。しかしながら、本術式を用いた場合、正確な術中定量・形状維持のしやすさ・重瞼の状態をくずさない、といった特徴から先の3要素を揃えることは比較的容易にでき、整容面での優位性も大きい術式といえます。
⑥ は先に述べましたが、皮下への麻酔は不要なため眼輪筋(目を閉じる筋)の麻痺は生じることはないといえます。手術直後においても閉瞼可能なことから、ドライアイに起因した症状や角膜障害などは通常みられず、”目に優しい術式”といえます。
⑦ 本術式に要する時間は、術中定量も含め、通常5分程度です。先天下垂など難易度の高い症例においても10分を超えることはまずありません。短ければ全て良し(笑)、、とは言えませんが患者さんの負担が少ないことは確かです。
⑧ 結膜への麻酔薬注射は、皮膚側への注射(経皮膚アプローチ)よりも痛みは少ないです。
⑨ 何らかの理由で再手術を要する場合、今度は経皮膚法を選択するのが無難と思われますが、前回手術の影響で生じた硬い瘢痕は、結膜側のわずかな範囲に限定され、皮下には生じません。一方で、経皮膚法の手術歴のある方の場合、前回切開部位の皮下に硬い瘢痕を生じており、不利な点として麻酔が効きにくく術中の痛みを感じやすいです。術野の展開も前回手術の影響を受けることになりますが、仮に初回手術が経結膜法であったとすれば術野の展開はあたかも初回手術のごとく行うことができます。
⑩ は術者側にとってのメリットといえます。電気メスやCO2レーザーなどの高額な機器は不要であり、メスと剪刀といった外来処置レベルの器具があれば施行可能です。
以上、私が考えうる本術式の利点についてご紹介しました。まだ他にも私自身が気付いていない利点があるかもしれません(笑)。次回は本術式のデメリットについても記してみたいと思います。